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CASE

2022.06.10

「地域おこし協力隊」として故郷へ。彼が「寺子屋」を選択した理由。

CASE 003

寺子屋 irodori Study Lab スクール長

井上涼さん

(所属地域:福岡県)

広川町出身 1994年生まれ
広川中学校→柳川高校→
阪南大学(在学中にイギリスマンチェスター大学に留学経験あり)

4歳からサッカーに明け暮れる日々を過ごしていました。
小学6年生の夏休みに海外(イギリス)へ行ったことで初めて世界の広さを知り、サッカー選手を目指す過程で、国内、海外問わずたくさんの人と交流をしてきた経験から、いつかは広川町の子どもたちにたくさんの勇気や選択肢を与えられるような大人になりたいと思うようになりました。irodori Study Lab(イロドリスタディラボ)は、「想定外の未来をつくる!」をコンセプトに「没頭体験」を通して世界を広げます。これまで知ることができなかった興味関心を広げたり、世界とつながるきっかけを提供することで、自分と社会をより深く知り、自分で考え自ら切り拓いていく力を育むことを目指しています。

 

地域おこし協力隊として地元福岡県広川町にUターンし、寺子屋「irodori Study Lab」を立ち上げた井上涼さん。地域おこし協力隊として寺子屋を運営する理由、寺子屋で提供しているコンテンツ、今後の展望を伺いました。

 



目次

 

地域おこし協力隊として寺子屋を運営する理由

 

irodori Study Labの立地・指導内容

 

指導内容への苦悩

 

今後の展望



 

 

―地域おこし協力隊として寺子屋を運営する理由

開校までの経緯を教えてください。

今のirodori Study Labの構想を持って開業に向けて動き出そうと考えていたタイミングでちょうど地元で地域おこし協力隊の募集が出たので応募しました。ありがたいことに採用されたので、地域おこし協力隊の活動として、この寺子屋づくりに取り組み始めました。
そこからとにかく教育のことや探究学習のことをネットで調べ、そんな時にたまたまあしたの寺子屋のホームページを見つけました。見ていくうちにどんどん気になって、考えていることや未来へのビジョンも一致しているなと感じたのでコンタクトをとって会社メンバーとお話しさせてもらって。そこでもっと「一緒にやっていきたい」と感じたので参画を決めました。もう、即決でしたね(笑)

|地域おこし協力隊に応募する前からirodori Study Labの構想をもっていらっしゃったのですね。その構想のきっかけは?

はい。きっかけは二つの違和感です。一つ目は「情報」について。今の中学生って僕の学生時代と比べるとスマートフォンもあって、情報をどこへでも取りに行ける時代になったはずなんです。でも実際生徒たちはそれらの調べ方が分かっていなかったり、うまく活用できていなかったり、自分の時の状況とほとんど変わっていなくて。もっと社会の変化に合わせて情報を正しく活用できるように教育も変わっていかなければならないと実感しました。
もう一つは個性について。学校の教室って個性を持っていてもみんなと一緒のことをしないと、とか所謂「普通」に合わせなきゃいけないって雰囲気があると思うんです。あと、いいものを持っていてもそれを僕が褒めたら「いや、私なんて」って言ってしまう子どもたちが本当に多くて。小さな成功体験を積み重ねて自信をつけながら、ひとりひとりの個性を認めて伸ばしてあげられるような場所を創りたいと思うようになりました。

|そのような場所を、広川町で作ろうと思ったきっかけは何でしたか?

この町で、というところに拘ったのは、やっぱり自分が生まれ育った地元に対する愛着ですね。この町の、子どもたちに寄り添ってあげたいという気持ちがありました。

|自分ひとりで開業するのではなく、あしたの寺子屋に参画して開業するメリットはどこにあると思いますか?

あしたの寺子屋のサポートは一度きりのイベントとかではなくて、日常的に寄り添ってくれるというところにとてもありがたみを感じています。特に、他の寺子屋長と繋がれることは最も大きなメリットです。まずメンタル面でかなり支えになっていますね。同じ目的やビジョンを掲げて頑張っている仲間がいて、その中で互いにいいことも失敗したこともみんなで共有できる関係で、「一人じゃない」っていう安心感が得られて心強いです。普段はどうしても一人でやらなければならないことが多いので、、。
子どもの関心を広げる、ということに関してもやっぱり僕自身にできることには限界があります。そういうところを他の寺子屋長と得意なところを補いあえることもメリットです。子どもたちにもより幅の広い経験を提供できるし、そこに興味を持ってくれたらもっと詳しい人を紹介したり、、という流れがあしたの寺子屋のネットワークの中でできています。
2021年12月には、日本各地の寺子屋と、ベルリン在住の寺子屋長を繋いでドイツのクリスマス文化について学びました。初めて見ること、聞くことばかりですごく子どもたちが楽しそうだったのが印象的でした。あしたの寺子屋での繋がりを生かして、こういう取り組みをどんどん増やしていきたいです!

開校するにあたって、不安はありましたか?

不安要素は場所だけでしたね。まず場所が無ければ何もできないので。協力隊は3年というタイムリミットがあるので、その3年間で場所すら見つけられずに終わってしまうことにとても不安を感じていました。はじめは公民館のようなスペースを借りて運営していましたが、あちこちでirodori Study Labの構想の話をして助けを求めているうちに幸運なことに場所を貸して下さる方に出会うことが出来ました。場所が見つかった今は不安なことはないですね。もちろん「人集まるかな」とか、そういう集客の不安はあるんですけど、子どもたちとの関わりについての不安は全くないです。

|寺子屋の物件はどう見つけたのですか?

2021年12月までは町の施設をお借りして開校していました。でも通ってくれる生徒が増えて来てからはirodori Study Labとして場所を構えたいと思うようになり、寺子屋運営と並行しながら物件探しを本格化させました。そんな中見つけたのが2022年1月から開校している今の場所です。ほぼ毎日その物件の前を通っていたのですが、よく見たら「study lab」 って書いてあって、「同じ名前じゃん!」と気付きました。これは運命だと思い、所有されている方のご自宅に突撃訪問させていただきました。その方は87歳で、まさかの僕の祖父と知り合い!これまで地域活動を熱心にされてきた方でした。お話を更に伺うと、このstudy labは元々英語教室をやっていた場所だということも判明しました。意気投合して、そこから「応援するよ」と仰っていただき、場所を貸してくださることになりました。

ただ、協力隊を始めて1年半の間、2021年10月までの間はもう全く見つからなかったです。本当に、地道に動いていたらタイミングがパッときたという感じですね。

|地域おこし協力隊の活動の一環として、寺子屋を運営しようと思った理由はなんですか?

 

一つ目は、地域おこし協力隊の行政上の目的を達成するための手段として、最適だと考えたからです。協力隊の行政上の目標は「定住」です。定住するためには、就職するか、自分で事業を立ち上げるか、というところになると思います。協力隊として来ているからには、プラスアルファで起業、というところはよく言われるところです。なので、寺子屋開業は役場にとってありがたい話だと思います。子どもたちの居場所もできるし、僕の場合Uターンで帰ってきているので、「住んでくれるんだ」という風に思ってくれるでしょうし。

 

二つ目は、地域おこし協力隊と寺子屋運営の親和性が高いことです。協力隊の活動で繋がった人脈は、そのまま寺子屋の広報でも活きます。具体的な例として、町の広報を使用できる、教育委員会に依頼を出すと比較的すぐに承諾を得やすい、というのは協力隊ならではのメリットですね。関係性を0から作らなくとも、役場が既に持っているコネクションを使うことができるというのは広報をする上でとても助かっています。ただ、協力隊だからと言ってどこの自治体でも同じ対応を受けられるわけではないので、確認は必要かと思います。

―irodori Study Labの立地・指導内容

irodori Study Labがある広川町はどのような地域ですか?

広川町は福岡県南部に位置し、久留米市や八女市、筑後市との一体的な生活圏を形成しています。福岡市の博多や天神からは、車でおおよそ40分ぐらいのところにあります。広川町には九州道広川インターがあるため、車があればかなり利便性が高いです。それもあってか、久留米市内や福岡市内で勤務するご家族の方がベッドタウンとして住んでいるような地域です。最近新築も次々と建ってきていますね。最近知ったのですが、ずっと広川町にいる方は町民の2割程度で、残りの8割の方々はここ20〜30年以内に広川町に引っ越してきた、という方々が多いようです。

改めて、irodori Study Lab はどんな場所ですか?

一言で言うと福岡県八女郡広川町にできた新しい英語塾です!英語学習と探究学習を組み合わせた学習コンテンツを提供しています!

まずは文法・語彙の学習を行ってから、英語を実際に使う時間をメインに設けます。

英語学習を通して、「自分から発信する力」をつけることが目標です。

新しく学んだ知識をすぐに実践に移す。この流れを作ることで、子どもたちは小さな成功体験を積み重ねます。この小さな成功の積み重ねが、子どもたちの自己肯定感を高めます

 

探究学習とはなんですか?

 

新しい「モヤモヤ」(答えのない問い)に対して、自分なりに仮説を立て、自分なりの答えを出していく営みが、探究学習です。

簡潔にいうと、「生徒が抱くモヤモヤを一緒に考えて、解決する個別指導」を行っています!

社会に対する違和感や、「これってなんでこうなんだっけ?」というような「モヤモヤ」は、自分を育てていくための大事な「種」です。

探究学習では、そのような「モヤモヤ」に個別で寄り添い、各生徒オリジナルのプロジェクトに取り組みます。ここは英語塾ですが、探究学習の時間では教科の縛りはありません。英語だけではなく、他教科、もしくは教科で分類できないことにまで及んで学習を促しています。

探究学習」は具体的にどのような手順で進められているのでしょうか?

まず、生徒との対話内容からテーマを選定します。テーマ決定後は、生徒の「やってみたい」を尊重しつつ、私がサポートしながら探究しています。

 

例を挙げると、元々色々なことに好奇心を持っていた、小学6年生の生徒が「小説を自由に書く」という探究学習をしています。

 

「小説を書く」というテーマを見つけるためには、まずは2〜3週間ほどかけて、ひたすらその生徒のことを知るために対話の機会を設けました。その中で、「自分の中ではあまりすごいことだとは思っていないけれども、周りから見たらすごいこと、強みになること」を私からその生徒に伝え、さらにその中から「本を読むことが好き」ということに着目しました。話を聞いていくうちに、その生徒は「自分は言葉で表現することがあまり得意ではない」ということ、「本を読み、そこから情報を整理して書いたり、ストーリーを創造することが好き」ということが分かってきました。

この段階で「じゃあ小説とか本とか書いてみない?」という流れでしたね。

 

元々、自分から「これをやりたい」ということを発信してくれる生徒なので、テーマ決定後は夢中になって執筆活動を続けてくれています。

ただ、好き勝手にやらせたり、生徒だけで活動させたりすることはありません。コーチである私の役割は、生徒の興味関心を承認しつつ、それをより深みのある学びにするために、「コーチング」を通して生徒の伴走をすることです。好奇心を好奇心のままで終わらせるのではなく、確実に行動にまで促すように指導しています。

|英語学習と探究学習は、どのような関連があるのでしょうか。

探究学習も、英語学習も、私の根底にあるのは「分かりやすく自己肯定感が上がる仕組みを作ること」です。自己肯定感を上げるために、2つの学習を実施しています。

 

英語塾なので当然英語学習が日々の中心になります。文法や単語学習、長文演習といった学習は他の英語塾でも見られますが、irodori Study Lab ではもう1段階深いステップまで提供したいと思っており、それが英語を使った「探究学習」です。探究学習を通じて発言内容、思考力に磨きをかけていきます。

 

子どもたちが英語で話すとなっても、そもそも話す内容が見つからないケースが多いんです。例えば、「自分が何が好きか」が分からない子どもたちは、What do you like? の会話が弾まないですよね。なので、我々は探究学習を用いた「発言内容探し」からサポートしていきます。

このように、英語✖️探究学習の同時進行で、最終的に「英語で自分を表現できるようになる」ことが目標です!

―指導内容への苦悩

「探究学習」は、聞き馴染みのない方が多いですよね。

はい。そもそも今の保護者世代の方々が経験したことがないものなので、このワードはまだ浸透していないように感じます。特にこの地域には、幼少期からずっと広川町に住み続けてきた保護者の方々が多く、「探究学習」や「PBL」といった教育手法を知っている人は少ないです。保護者の方ご自身に海外経験があるとか、教育学を専攻されたとか、そういう方には「探究活動」の意義が比較的伝わりやすいのですが、まさにそこがirodori Study Labにとってチャレンジングな部分だと考えています。

|そこに対して今はどのようにチャレンジされているんですか?

現在は伝え方を工夫してみようと思い、取り組んでいます。当然ビジョン自体は全く変えるつもりはなくて、生徒にはやりたいことに没頭してもらう、それを全力でサポートする指導を行っていきたいと思っています。ただ伝え方は「PBL」や「探究学習」という聞き馴染みのない言葉ではなく、保護者の実体験に沿ったものへ変えていこうかなと思っています。例えば、普段の遊びの中で自分自身がすごいハマった経験の方が、義務教育で学んだ事よりも覚えてると思うんですよね。石についてすごく調べたりとか、ある建物について人に話を聞いたり、本を読んだり、調べたりとか。それが意外と今の人生にも役立つ、ということは多いと思います。このポイントを踏まえた形でビジョンやコンテンツの伝え方を工夫しています。

 

―今後の展望

|生徒にとって、井上さんは伴走してくれる存在ということが分かりました。そこに通わせている生徒の保護者の方にとっては、どんな存在でありたいですか?

保護者の方に一番に思ってほしいのは、「ここに子どもを預けると、子どもたちが私の想定を越えてくる」というようなイメージですね。ここに来ると、子どもの可能性が世界、社会に開かれ、そこでは色んな気付きが待っている。私がそこで子どもたちをナビゲートする。例えるならば、あの有名な「秘密道具の扉」のような場所です!

 

例えば、保護者の方に

 

「海外留学に行かせるなんてありえないと思っていたけれど、irodori Study Labに来ると、現実的な選択肢として考えられるようになった。」

 

「全然自分の意思を持たずに、ただただ親の言っていることを聞いてきただけのような子なんだけど、irodori Study Labに通い始めてから、新しい情報や場所を求めて、これがやりたい、あそこに行きたい、と自分から行動できるようになった」

 

と言っていただけるようなイメージです。

 

保護者の方が今まで考えていなかったようなところまで子どもたちが成長する。ここに連れていくと大人の想像を子どもたちが越えてくるような場所にしたいな、と思っています。

|これからの目標やビジョンを教えてください。

生徒一人一人が自分のプロジェクトを持って、3か月に1回くらいのペースでみんなで報告会ができるような、そんな指導をしたいと思っています。すると、1年に4回くらい報告会ができるから、自分がゼロからやっていることが生徒同士で認められたり、評価してもらえるという経験を、何度も実感できる所まで持って行きたいです。例えば自分が描いた絵を他人に見せる時ってドキドキするじゃないですか。でもそういった「自分の内側から出したもの」が周りから褒められたり評価されると自分を肯定してもらった感じがしてすごくうれしいと思うんですね。それが、定期的なプロジェクトとしてできるようにしていきたいと思っています。

 

あとは常日頃から10年後とか20年後、今の小学生が大学を卒業するくらいのタイミングを想像して指導するようにしています。子どもたちには社会に合わせるのではなく、自分のやりたいことで生きていこうって一番に思ってもらいたい。ありのままの自分でいいんだって、その選択をしてほしい。子どもたちには自分らしく生きて欲しい。そして欲を言えば、「故郷である広川町をもっと良くしたい」とか「変えていきたい」という想いを持って、いずれは帰ってきて事業をおこすとか、そういう事例が出てきてくれたら嬉しいです。そんな社会が実現するように、若者や子どもたちが挑戦しやすい文化を地域につくっていきたいと思っています。

 

*より詳しい情報が欲しい方は以下のフォームをご記入ください。
あしたの寺子屋より、概要資料を送付させて頂きます。

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